備忘録

国民年金の学生納付特例適用者が、新社会人になった時の追納に関する手続&考え方(後編)

※旧サイトにおいて掲載していた2015年11月15日時点の情報です。

0.前提情報&今回の要旨

・法学部出身。でも年金・税務系のプロではなくタダの素人。

・極力公式の情報を引用して正確な表現に努める。

・前編は「追納手続きそのものについて」記載したので、後編は「『どうせ追納するなら最大限に得する方法でやりたいよね』って考え方について」

・注釈は文末に入れてます。


☆要旨1☆

学生納付特例で得られるメリットは「年金の確実な確保」と「所得税の還付」。

☆要旨2☆

「追納加算額(≒利息)」を少なくするには早く返したい⇔所得税の還付を最大限得るには、ギリギリまで延ばしたい → 金銭面だけ考えると「加算率 < 所得税率(還付率)」となるからギリギリまで延ばしたほうがいい。

☆要旨3☆

但し「年収438万 +α(額面月収27万+ボーナス4ヶ月分)」「年収645万+α(額面月収40万+ボーナス4ヶ月分)」 というお得の境目を10年以内に超えられなければ、延ばしたところで得しない。 突然のリスクに備えて余裕のあるときに払うのも一つの手である。


1.国民年金の追納手続きで「得をする」とは

(1)直接的な得:将来もらえる年金額が増える(はず)

老齢基礎年金(いわゆる「国民年金」)の受給計算においては、学生納付特例制度で猶予になっていた年数は「合算対象期間」(通称「カラ期間」)と同様に計算できる(※1)。これが追納することで「保険料納付済期間」に変わるので将来の年金受取額が増える。

合算対象期間 ( http://www.nenkin.go.jp/yougo/kagyo/gassantaisho.html )

老齢基礎年金などの受給資格期間をみる場合に、期間の計算には入れるが、年金額には反映されない期間のことです。年金額に反映されないため、いわゆる「カラ期間」と呼ばれています。 (後略)

(日本年金機構「年金用語集」より 太字筆者)

国民年金の金額の計算って「当該年度の年金額」×「保険料を支払った期間(免除期間はその分減算する)」って行ってる。意外と知られてない…?

参考:日本年金機構  老齢年金(昭和16年4月2日以後に生まれた方)

http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/jukyu-yoken/20150401-03.html )

まぁ年金システムが潰れないことが前提ですけども。

(2)間接的な得:社会保険料控除を適用して所得税・住民税が軽減できる

前編でも書いたとおり、確定申告又は年末調整の際に支払った保険料の領収書を提出することで、「本年の所得税の還付」及び「来年の住民税の減額」が出来る、という事である。

このそれぞれのお得を少しでも増やせないか、という視点で以下検討を進めていく。


3.直接的な得を増やす

結論から言うと、学生納付特例制度のみを活用し、なおかつ当該制度に基づく追納をする前提で(※2)将来受け取れる年金額を増やす、というのは不可能。

直接的に増やしたいのであれば、「付加年金(厚生年金未加入者に限る)」「確定拠出(給付)年金」「3号被保険者になってしまう」等々他の方法を検討するべき。

しいて言えば、3年目以降の追納に対しては、加算額(≒利息)が設定されている。従って、大学卒業前に払えばすべて、新社会人一年目で払えば20歳になった年の年金額を除き追納加算額は0円なので、支払う金額を少しでも減らすことが出来る。

(国民年金法第94条第3項、国民年金法施行令10条などが根拠になる)

ちなみに追納額の算出根拠は直近10年間の国債の利率を目安に決められている。

従って今のところは良いけれど国債の利率が跳ね上がると払う加算額が増える可能性がある、ということでもある。

(電子政府のページからダウンロードできる正体不明のPDFファイルにも一応記載されていたり……。)

http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000126178

まぁそんな理由で追納加算額上がったらもう国がオシマイだけどね


4.間接的な得を増やす

「社会保険料控除による還付額を増やす」という事を単純に考えると、「所得税額の多い(≒住民税も多くなっている) 年=『収入の多い年』に追納して還付してもらう」という結論に行き着く。年功序列の企業に入れていれば、年齢を重ねる毎に収入は増えていくはずである。ただし、追納は10年までしか遡れないので、現役ストレートの学生だった人の場合、30歳までには少なくとも20歳の時の年金の追納をしなければならない。収入が一番増える(と考えられる)ギリギリまで引き伸ばして、その年に駆け込みで支払うのが一番得、と考えられるのである。


5.追納加算額と所得税率の境目を検討する

従って直接的・間接的得の双方を最大化したい場合「①追納加算額をなるべく抑えて②税金が多い時期に払う」というのが理想となる。

①については、前述の日本年金機構の学生納付特例のページに毎年納付金額の一覧表が出るため、それを基に計算すればよい。

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但し、上記の表及び前述のとおり、国債利率を元に計算するため、将来的な追納額を確定することは出来ない。概算額として考えておいていただきたい。

大問題は②の計算。 「控除適用後の課税対象所得がいくらなのか」を「先に予測する」のが難しいのである。

当年分を確認するには、年末調整を済ませた後に会社から渡される「源泉徴収票」を確認するのが一番簡単である。

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受け取った自分の源泉徴収票の①-②の金額に基づく税率を、その金額にかけることで⑤の源泉徴収税額が決定される。

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社会保険料控除は所得控除の一つであるため、実際に還付される金額は「支払った社会保険料」×「所得税率」と概ね一致する。 そのため、還付される金額以上に源泉徴収されているようであれば、税率が高い段階で払ったほうがより還付額は形式上増えることとなる。

あんまり税務関係に詳しくない人がこれに関して記事を書くと、この数字だけをみて「年収が330万を超える25歳くらいで払えば得やん!」ってなる記事が出来上がる。本来は課税所得≠額面収入・手取なので計算して考える必要がある。

課税所得で195万を給与収入だけで超えるには、年収438万 (額面月収27万+ボーナス4ヶ月分)、330万を超えるには年収645万(額面月収40万+ボーナス4ヶ月分)ぐらい稼ぐ必要がある。(※3:詳しい計算方法を解説)

 それに加え、速算表にある通り、控除額があるため実際には「330万円を超えた所得に対してのみ20%で税が課税されている」こととなる。

以上のことから、「加算率 < 所得税率」となる範囲で年金を収めてしまえば概ね損はしない、ということになる。


6.結論

以上のことを踏まえると、「438万を超えられなければどこで払っても同じ」「438~645万なら5%を超えない25~27歳位で払うべき」「645万超えられるならギリギリまで粘ってもいい」、というのが私の結論となる。

ただし、30代前半の平均年収が男性446万、女性301万(民間給与統計実態調査)30歳で年収が600万超えが11% 程度(DODA転職サイト) 、というのも踏まえる必要がある。さらに奨学金の返済(在学中月3万借りると元本だけで計144万、月1万×12年返済となる)や突然の病気、実家を出なければならない状況や結婚などお金が吹き飛ぶライフイベントは多々存在する。必ずしも後へ延ばしまくればいい、というものでもないことに留意しつつ、年金追納と所得税還付をうまく使って少しでも得していただければ幸いである。


【参考HP】

日本年金機構 http://www.nenkin.go.jp/

まぁ言わずもがな。サイバーセキュリティー除けば頑張ってる方なのでは…

早起きはyutechiの得「国民年金を使って節税する!学生納付特例の追納」http://yutechi.hatenablog.com/entry/2013/01/25/003657

ざっくり理解するにはわかりやすい。 若干計算に誤りが見られるため鵜呑みにはしない方がいい。

大和総研グループ 資本市場調査部 是枝俊悟「コラム 新入社員のための給与明細の読み方」

http://www.dir.co.jp/library/column/110412.html

タイトル通り。必要最低限の事が的確に書いてある。シンクタンクってすげぇんだな。


【注釈】

(※1)「学生納付特例制度もカラ期間の一つである」としているページも見かけられる。しかし、「法文上そのような記載が確認できなかった事」及び「障害年金等に関しては満額支払いと扱って給付する」旨があることから完全にカラ期間と同一のものとは考えにくかったため、このような表記とした。

(※2)今回の趣旨をぶち壊しであるが、追納をせず、なおかつ年金額を減らさない、という方法も存在する。平たく言うと「年金満額もらうには40年以上年金を払っていればいい⇒それなら60歳以降に2年強さらに払えばいい(定年後に任意継続する)」という発想である。私としてはこの方法は推奨しない。詳しくは以下の記事を参照されたい。

大和総研グループ 資本市場調査部 是枝俊悟「コラム 学生時代に免除された国民年金保険料を追納すべきか」( http://www.dir.co.jp/library/column/111011.html )

(※3)算出計算式は以下のとおり。自分の、あるいは本文中の源泉徴収票と照らし合わせながら計算してみてほしい。

「年収(「支払金額」)」-「給与所得控除」=「給与所得控除後の金額(①)」

「社会保険料控除(③)」+「生命保険料控除(④)」+「基礎控除(一律38万)」+(その他各個人が該当する所得控除)=「所得控除の額の合計額(②)」

①ー②=課税される所得金額(=上の表の税率を判断する基準となる金額)

(正確には、「給与以外の収入がある」「株やFXなどの金融商品、不動産等の売買をした/保有していた」などで変わることもあるが、新社会人ではあまり無いと思うので省略する。このような収入がある場合は税務署・税理士と相談すること。  )

よって一番最後の数字が330万を超えるように数式を立てて計算すればよい。給与所得控除は660万円以下は別表で計算するので(参考)、①=所得控除(除基礎控除)+368万、でざっくりあてはある数字が算出できる。計算が面倒なので生命保険料控除は省略、社会保険料控除に関しては、健康保険・年金・雇用保険を協会けんぽ(東京都)の数値を元に約14.4%と想定して算出している。 

それを表を見ながらおおまかな手計算()すると、収入644万円の時、給与控除後の所得①は4,608,800円、社会保険料控除(相当額)927,360円、課税対象所得3,301,440円となり330万を超える事となる。同様に195万円のボーダーについて計算すると、収入438万円の時、別表より給与控除後の所得①は2,960,800円、社会保険料控除(相当額)630,720円、課税対象所得1,950,080円となりギリギリ195万を超える事となる。 

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